令和2年(2020年) 5月 NO.24

日本忌部紀行 “忌部(INBE)を行く!”

忌部文化研究会 会長 林 博章

 会員の皆さまには「忌部」の足跡を楽しんでもらう目的で、“忌部を行く”を連載しています。阿波国(粟国)を拓き、日本各地の創生に活躍した阿波忌部の足跡を辿っていきます。中でも阿波忌部が麻を植えて拓いた故事にちなむ旧麻植郡(現在の吉野川市)の伝承地を紹介したいと思います。鴨島町編の9回目は、「市瀬」です。

市瀬~忌部の“麻市”伝承~

●場 所 - 吉野川市鴨島町牛島字市瀬

 鴨島町の向麻山の北山麓に沿って東流する飯尾(いのお)川の北東山麓は[市瀬(いちぜ)]と呼ばれ、その名称は、バス停や橋の名称に付けられている。その由来は『鴨島町誌』に「大昔、阿波忌部の麻の市が開かれていた。或いは、麻殖保(おえほ)の代表的な市場があったから、この地名がついた。」と記される。「市瀬」を流れる飯尾川は、麻漬(おけ)・麻漬(おけ)の口と呼ばれ、古くは吉野川の本流であった。向麻山(こうのやま)の北西山麓には、阿波忌部が麻を精製した麻搗石(おつきいし)・麻晒石(おざらしいし)なる古代遺跡があったことから考えれば、古代に麻織物を作る忌部の産業技術集団が、麻製品の交易市場を置いていたのかもしれない。